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其の拾 ◆お燗酒◆ 楽し旨し、癒しのお燗酒

温かいお酒をキュイといただくのは、 寒い季節ならではの幸せ。
ほんのりお燗をすると、酒本来の味がふっくら膨らんで、大輪の牡丹の花のように花開くから面白い。
一人でとっくり、二人でほっこり、みんなでにっこりーー杯を重ねるごとにゆるやかに酔いがめぐり、こごえた身と心を、じんわり溶かしてくれます。


■温めて楽しむお酒の味わい

お燗酒の楽しみは、寒いシーズンに温かい飲み物を、というのはもちろん、温めることで変化するお酒そのものの味わいを楽しむところにもあります。

 同じお酒でも、いろんな温度で楽しめるのは、日本酒のなによりの特徴。ほんのりお燗すると、お酒本来の味がふっくら膨らんで、隠れて眠っていた力が大輪の牡丹のように花開くのです。
  ひと頃は、質のあまりよろしくないお酒の味を誤魔化すために火傷しそうなほどアツアツに燗されたり、あるいは地酒を燗するなんてもったいない、と言われていた時期もありました。しかし、お酒好きの皆さまは、堂々と、美味しい地酒を人肌前後のぬる燗で楽しんでください。
■お燗酒に向くお酒
お燗にして風味がアップするお酒を「燗あがり」する酒、とも言います。一般的に、旨味や酸味が多く、味のしっかりしたボディの強いお酒が、燗して美味しいとされています。反対に香りを楽しみたい大吟醸酒や、フレッシュさを味わいたい生酒などは、常温や冷やのほうが、持ち味を殺さず美味しくいただけます。

  お酒の魅力を最大限引き出すために大切なのは、そのお酒を知ること。お酒が最も輝く温度を見つけてあげることです。ひとくちにお燗酒といっても、温度はさまざま。熱燗といっても、煮立ったように熱いお酒ではないのは見ておわかりの通り。あまり温度を高くするとお酒の味のバランスが崩れてしまいます。

 濃醇なタイプのお酒は比較的高い温度(上燗や熱燗)でも大丈夫ですが、シャープで淡麗なタイプのお酒は人肌燗やぬる燗程度で楽しむのがおすすめです。

  興がのったら、5度区切りで温度をあげていってみてください。同じお酒のはずなのに、味わいが万華鏡のように変化する様を楽しめます。人肌で香り立つ芳香、熱燗にして深くなる味わいーー「輝きの温度」を見つけてください。

 ■上手なお燗のつけ方・いただき方

卓上湯煎徳利
◆湯煎で

卓上湯煎徳利
 風情を大切にしたい雰囲気重視派なら、やはり湯煎をする要領でお湯に徳利をつけて温めるのがいちばん。
 
  やかんや鍋で湯を沸かし、火を消してから徳利を浸します。冷蔵保存されていたお酒は、水からつけて、徐々に温めていくのも手です。このとき気をつけたいのは決して水を沸騰させないこと。そして温まりすぎを防ぐため、こまめに目をかけてください。

◆電子レンジで

電子レンジ用徳利
  電子レンジの場合、温めるときの器の形状によって温度にムラが出るのでご注意を。たとえばふつうの徳利だと、首のところは熱くても中の方はぬるいまま、という憂き目に合います。

 片口(=お椀のような形状の酒器)なら、電子レンジでも、まずまずムラのないお燗ができます。また、電子レンジ用の徳利もあるのでご活用を。

 うまくお燗をつけられたら、せっかくの温かいお酒が冷めないように、「厚手」で「小ぶり」な「焼きもの」の盃でいただきましょう。


電子レンジ用徳利
■からだに優しいお燗酒
 〈夏のお燗酒〉でもご紹介しましたが、お燗はからだにやさしい飲み方です。冷酒はアルコールの吸収が遅く、途中で急激に酔いがまわります。酔ってない、酔ってない、と油断していると、急激に酔いがまわって驚いたこともあるのでは。

  一方、お燗酒はアルコールの吸収が早く、飲んだら飲んだ分だけ酔いがまわります。つまり、酔いの度合いを自分でチェックでき、飲み過ぎ防止の効用もあるということ。だから、からだに負担をかけません。

  お燗酒は口当たりも滑らかに、一杯、一杯また一杯と盃をかさねるごとに、柔らかに、ゆるやかに、ゆったりと酔いを身体にめぐらせ、凍えた身も心も優しく溶きほぐしてくれるのです。

■ゆったり旨い、おもてなしの心
その昔、心ある飲み屋には"お燗番"がおりました。女将を引退したお婆さんが、鉄瓶の前に陣取って、お客様の様子を見ながら適度な温度にお燗をつけていたのだとか。お客様の好みに合わせるのはもちろん、接待役があまり酔わないようにと熱燗を出したり、疲れた様子の人にはぬる燗をサービスしたり。まさに、おもてなしの極意です。

  また、普通の家庭でも、かつては特別な客をもてなす際にお燗酒を供していたようです。ひと手間加えてお酒を温めるーーお燗酒は、いかにも日本人らしい気配りを感じさせます。

  心のこもった抜群のつけ具合のお燗酒を、美味しい料理と、楽しい人と一緒に、ゆったり楽しむ。それだけで、日本に生まれてよかった、と感じる"癒し"のひとときが生まれるのではないでしょうか 。



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